早くも第4回となった帝京大学水泳部への指導。

私の指導があまりにも魔法のようだ、ということで浜上監督よりこの講習会が「魔女クリニック」と名付けられました。

監督も積極的に部員に混じって一緒に参加していて(本気で自己ベスト狙ってるのでは?!)、なんでも吸収しようという姿勢も私の意図を汲み取ってくれる洞察力も本当に凄いです。

まずはそんな浜上監督のレポートです。

第4回 魔女クリニック】

西園 美彌さんを帝京大水泳部にお招きし、ご指導いただきました。これで通算4回目。

(※毎回毎回、選手たちの姿勢や動きを次々と変えていく魔法のような指導をしてくださる彼女を心よりリスペクトし、本クリニックを「魔女クリニック」と名称変更させていただきました。)

今回の全体テーマは「骨盤コントロール」。
泳中の姿勢、ドルフィンキック、スタート等すべてのスキルの基盤になるであろう骨盤コントロールに焦点を当てました。

写真を見るだけだと、どういうねらいのエクササイズなのか見当もつかない方も少なくないと思いますが、そこには明確なねらいが込められています。
さらにうちの選手1人ひとりの特性やチーム全体の課題に合致するように工夫もされています。
まさに無限のレパートリー。

後半のスイムパートでは、わざわざ入水していただき、手取り足取りの指導まで行っていただきました。
これに優れた言語表現と演示、適切なエクササイズの提示が加わるんだから、上手くならない訳がないんですよね。

(ほんとすごいです。この魔女。)

クリニック後には、本日参観しに来られた日本女子体育大学水泳部を率いるKeisuke Kobayashi Yamakawa先生とも一緒に食事をして解散。
日女体大の躍進を生んだ彼の思考や想いも垣間見ることができ、こちらも大変勉強になりました。

西園さん(=魔女)からの「ここにいる全員にベスト出してもらいたい」ってストレートな言葉。
学生たちの胸にかなり響いたんじゃないかな。
自分たちのためにこんなに真剣になってくれる人が周りにたくさんいるって、君たちほんま幸せもんやと思うわ。

そんな人たちに結果で恩返しできるよう、僕も引き続き全力で頑張ります。

 

(素敵な友人を持って幸せだなぁ)

 

また、

帝京大学水泳部員の報告ブログもぜひご覧ください。

嬉しい!最高!

監督が大切にしてほしいと思っていること、私が伝えようとしていること、学生自身が受け取ったことやそこからなにを考えていけばいいのか、良い循環が生まれていると思います。

 

 

 

さて、このブログでは指導内容とそれらの意図や解説をしていこうと思います。

その場で説明しきれなかったことの補足、また復習する際にも利用してもらえたらなと思います。

 

 

今回のテーマは「骨盤・股関節」

 

---≪姿勢づくりと骨盤≫---

 

まずはじめに写真のように壁にぺったりとくついてもらいました。

「感覚としてのまっすぐ」ではなく「物理的なまっすぐ」を知るためです。

 

1人1人をチェックしました。

泳ぎの速い選手ほどまっすぐでした。

背骨をまっすぐにするためには骨盤の角度を調整する必要があります。膝を曲げても構いません。かかとは壁につけておきます。

このまま、背中を壁につけた状態をキープして片足を前に出します。床から足を浮かす必要はなく、擦らせら感じでOK。そのときの、残っている脚(軸足)は坐骨のあたりに力が入ると思います。入らない人は体が保てず倒れます。なので、坐骨、お尻と太ももの境い目の筋肉に力を入れます。

 

 

今回、グループをベストが出ているグループAと伸び悩んでいるグループBとに分かれてもらいました。

そしてAとBでペアをつくってもらいました。

ついついAはA同士、BはB同士で近づいてしまうもの。たまには違う人と。そしてそんなペアで互いの身体を感じ合ってもらいたかったからです。

 

---≪ペアでの体幹トレーニング≫---

後ろの人が片足ずつ手を離し、下の人は手を離された脚が動かないようにキープ。

この時、下の人は両足を遠くに遠くに伸ばす意識で姿勢維持に努めます。

[筋肉・身体は固めるのではなく伸ばすこと]

 

はじめは「右足はなすよ〜」と後ろの人が伝えながら行います。

その後、伝えずにぱっと離します。

遠くに遠くに伸ばす感覚でいれば身体はそんなにブレないですが、そんな人も集中が切れるとブレます。集中力トレーニングにもなりますので6回〜10回連続でやると良いでしょう。

 

ブレてしまう人について:

人によって、反射的に締まる部位は異なります。肋骨あたりの人、お尻の人etc.そこは自分の弱点なので、泳ぐ際やトレーニングする際にはそこに意識を置いて練習することをオススメします。

 

---≪体幹トレーニング×骨盤≫---

次は床に両手をついてGボールを利用しながら腰の上げ下げを行うエクササイズをペアで行いました。

ヒュッと腰を上げ、10秒かけて降ろす。大事なのはヒュッという効果音に見える動きにすることです。

[お腹の奥を使い、股関節はなめらかに滑らせること]

「ぐいっ」じゃないですよ。

「ヒュッ」ね。吸い込む感じ。

 

---≪三転倒立≫---

水泳選手には三転倒立はすごくいいと思っています。

部員のみんな、壁を使うとすぐにコツを掴んでいきました!

 

で、出来そうだったので、発展系を追加。

三転倒立から膝を折り曲げ、骨盤を押し出します。この目的というのは

[骨盤コントロール&大腿四頭筋のストレッチ]

です。この姿勢でうまく脚の力を抜くと骨盤の感覚が持てるようになります。また、水泳選手にとって必要な上腕三頭筋や肩甲下筋などのインナーマッスルにも刺激を入れられると思います。

長めにこの姿勢でいることで脚の力が抜け、お尻の奥、骨盤底筋にも徐々に刺激が行き、使えるようになっていきます。この骨盤を押し出す感覚はドルフィンキックのときに生かしてほしい感覚です。

 

また、骨盤底筋や坐骨を寄せる感覚ができてきたら、お腹の奥が収縮する感覚もでてくると思います。そのお腹はストリームラインのまっすぐな体幹をつくります。

おへその下、お尻の締まり方は筋肉がどんな形になっているのかも重要です。

部員にはそこまで見てもらい、私の筋肉も触ってもらいました。私はなるべく言葉にして伝え、部員にも感じたことを言葉にしてもらい、私と部員の感覚の共有を行なっていきました。

 

 

 

---≪骨盤を使う・骨盤を押すトレーニング≫---

骨盤のお腹側には腸骨と恥骨があります。

左右の腸骨と恥骨の三点を床につけます。腸骨を床に落とすといわゆる骨盤前傾、恥骨を床に落とすと骨盤後傾ということになります。

まずはうつ伏せになり、指を腸骨に当て、腸骨と床で挟むようにします。指で腸骨の圧を感じながら脚を上げ下げします。このとき、脚を下げる際にも圧をかけ続けることが重要です。下げるときに圧がなくなるというのは水中においてドルフィンのダウンキック時に腰が浮き上がってしまうことを意味します。

 

次に脚の上げ下げを腸骨と恥骨の三点が床についた状態でやります。脚は低くて構いません。三点まんべんなく圧をかけている感じと、脚と背骨を伸ばしている感じを大事にしてください。

 

骨盤を床に押し当てながらも首・背骨を伸ばす意識が必要なので、写真のようにペアの人が優しく伸ばしてあげてください。

 

骨盤はニュートラルである=前傾(腸骨が床を押す)と後傾(恥骨が床を押す)の両方を同時に行っていることが大切だと私は考えます。

…………………

 

個別の質問タイムも設けました。

 

これはドルフィン動作を説明中。

寄りかかっていながらも、押してます。骨盤を前に前に。この姿勢でドルフィン動作を再現します。

ちなみにこの場で思いついたトレーニングです(笑)

写真のようにペアの人に骨盤を押さえてもらいながら動くと、ドルフィンで自分がどの姿勢のとき力が抜けてしまうのかがわかると思います。

(骨盤を前に出さない人は、腸骨恥骨の三点を床に落とすエクササイズに戻る)

…………………

「実はまだストリームラインが分からないんだって人いる??いたら聞きにきて」

という問いかけに数人がやってきました。

 

「泳いでいたらどんどん曲がっていっちゃうんです。なにか間違っていますか?」

という彼は肩の高さの左右差が大きく、普通にしているだけでも右肩が上がっていたため、首と肩のストレッチする事を指導しました。

右手は背部へ。左手は耳のところに置いて左に倒す。私はさらにストレッチをかけるため鎖骨末端を抑えています。息を吐きながらゆっくりとストレッチ。さらに首の回旋もしてもらい、ななめに走る筋肉も伸ばしました。

 

人間は左右差があるものですが、度が過ぎた歪みは修正しましょう。左右対象に身体をつくる意識で日常を過ごすことをオススメします。

…………………

「自分、ストリームラインが、なんか変なんです。」 →質問ウケるし笑

 

彼もまっすぐなストリームラインのつもりでまっすぐでない形になっていました。ストリームラインを組んだときの形が二等辺三角形にならない。

その原因をあれこれ探していると右上腕の筋肉の一部に引っかかりを生む筋肉を見つけたので、水泳部のトレーナー(後ろの女の子)を読んで、邪魔している筋肉の部位と、その筋肉のマッサージ仕方を伝えました。

「西園さんの触り方、それと違った。もっとめっちゃ痛かくて…なんか…」と彼はトレーナーに説明していました。感覚的な会話がどんどん行われている様子はとてもいいものでした。

…………………

約1時間の陸トレの後、

スイムパートへ!!

 

スイムパートはいま思い返すと反省点多し。。

陸トレを泳ぎに応用してもらいたかったのに、個人の身体や動きの違いの修正に終始してしまい、骨盤・股関節・下肢の安定がいかに重要かの言葉の説明が不足していた気がします。

 

今回は伸び悩んでいるグループをメインに指導しました。

 

バタ足(下半身)のみをまずはやってもらいました。

私は下半身から身体と意識をつくるのが良いと思っています。骨盤・股関節・下肢の安定が獲得されなければ、いくら上半身を使えても、軸がブレてしまいまっすぐ進まなかったり効率の悪い泳ぎになると思うからです。

 

腰が上下左右にブレてしまう人は全員お尻もお腹も締まっていませんでした。陸トレで「ここを使って!」と何度も伝えている、座骨を寄せる力やお腹の奥を使うことを、ここでもとにかく協調しました。使うのは奥の奥。じゃないとブレます。アウターマッスルを使ってしまうと股関節は動かなくなりますし、背骨もしならなくなり、うねりができなくなります。

 

(私)「もっとお尻締めて、そのままで泳いでほしい」

(部員)「これはドリルとしてやっているだけで、実際に泳ぎに移るときにはこのままではないですよね?」

(私)「うーんと、筋肉にスイッチが入ったら、その筋肉を使いながら、股関節は動かしていくって感じかな」

(部員)「こんなにお尻を締めたら動けません」

(私)「そう、でもその中でやらないとなんだよね」

このとき、部員が使っているのはアウターマッスルで、私が伝えたかったのはインナーマッスルだったので、意思疎通が出来てなかったのではないかと反省。でも最終的には

(部員)「あ、、、私全然力弱いってことですね」

(私)「そういうこと!で、あなたの場合はもっと内転筋を・・・」

と分かってもらいました。

こうしたやりとりで互いの理解が合致しているかを確かめながらやることはとても重要だと思います。部員の方から私にも意見を言いやすくなってきたのは信頼関係が生まれている証拠かなと思うと嬉しいです。継続することの意味の大きさを感じました。

…………………

ひとりひとり違う身体。

身体の特性、癖、重心、骨・筋肉の使い方、意識の置き方、動作中の目線etc.

あらゆることが微妙に違いますが共通点かなと思うのは以下のこと。

 

上半身の使い方:

・クロール:身体がガチガチに固める癖のある人は水をかくとき肩が上がる。水をかこうとするのではなく、肩を落とす(骨盤方向に下げる)意識で行うこと。右肩を落とそうとしたら、左手は勝手に前に伸びる。

・背泳ぎ:右腕を伸ばした瞬間に左骨盤を止めておくこと。対角線の意識を持ち、骨盤と腕を引っ張り合う感覚。

・平泳ぎ:肘を曲げる動作は肩と上腕の外旋動作にすること。結果的に脇がしまる。上腕三頭筋が使われる。そのまま外旋動作を続けて手を伸ばす。

(手を伸ばした後は両手を広げすぎない方が良いと思うけどこれは人によるのかな…)

・バタフライ:両手が体の横を通って水を押す局面、ここも平泳ぎと一緒で肩と上腕の外旋動作を含みつつ動かすこと。その力が強くなれば「両手を前に伸ばす」感覚ではなく「両手は勝手に前に出て顔の前で締まる」という動作になる。

 

…………………

私はこの帝京大学水泳部の指導の2日前、実際にプールへ行って1人で泳ぎの感覚を確かめました。

姿勢やフォームを変えることで推進力がどう変わるのか。

水を掴む感覚、水の中で骨盤を揺らさないためにはどんな部分にどんな意識が必要なのか。

「こうか?いや違うな・・・こんな風に泳いでるように見えるけど・・・あ、もしかしてこんな感じなんじゃ・・・?!」

と、かなり変な人だったろうと思います(笑)

 

それを踏まえての今回の陸トレ、そして水中での指導となりました。

 

筋肉を触り、骨格に合わせた意識を伝え、ときにはその子になり切って私が同じ感覚で泳ぎ、その子の動きのイメージが良くなるまでいろんな方法・言葉で表現し伝えていきました。

 

数人を残して部活終了の8時をまわってしまい、一度締めることにして「聞きたい人は残って」ということにすると何人もの部員が「僕も!私も!」と並んで待っていてくれていて。

ベストを出しているグループからも残って聞きにきてくれて、残ってくれた最後の1人まで動き方を教えることができました。

 

気付いたら2時間半以上水の中にいました。

終わったらもうヘトヘトでした。でもすごく良い疲労感で。一舞台終えたような達成感がありました。

ですが、もっと時間が欲しかった~!また次回。

本当にみんなの熱意に後押しされて、いい時間でした。

みんな、目がキラッキラしてて素敵でした。

…………………

帝京大学水泳部には何人もの指導者・コーチが偵察に訪れるそうです。

そのだれもが「部員が全員、本当にイキイキとしている」とおっしゃるようです。

私も回を増すごとに楽しそうになっていくし、知りたい・速く泳げるようになりたいという部員のみんなの欲求を感じます。

帝京大学水泳部の子たちは、それがとても純粋なんです。

素直な子たちなんだなぁと思うし、その雰囲気を作り出している浜上監督や平野コーチは本当に指導力のある素晴らしい方々なのだなと思います。

…………………

 

ベスト率100%達成のため、尽力していきます!!

引き続き、帝京大学水泳部にご注目ください。

 

また、私は自分の持っている知識や経験や言葉がより多くの人に届くことを望んでいます。

このブログから何かヒントを得て、1人でも多くのスイマーが自己ベストを出せたり、泳ぐことが楽しくなったりしてくれたら本望です。

 

 

参考記事:

帝京大学水泳部への指導(第一回)

帝京大学水泳部への指導(第二回)

帝京大学水泳部への指導(第三回)